私は、扁桃腺除去手術のため、クリスマスに、手術室の椅子に磔にされました。
手をアームに括り付けられ、足はベルトで椅子の脚に固定され、頭はヘッドバンドで抑えられ、胸には心電図、指には酸素モニターが付けられた状態で、
「はーい。大きく口を開けて」
と手術担当の大先生が言いました。
扁桃腺手術は、当時(今は知らん)、局所麻酔で行われることが多く、完全に意識のある状況での施術でした。
まずは、痛くて変な味のする麻酔薬を喉の奥に打たれただけでも ダメージが大きく、心臓はバクバク。
麻酔が効いた頃を見計らって、柄の長いスプーンのようなものが私の口に突っ込まれます。
「ほら、しっかり、口 開けて。舌が邪魔。見えん。もっと、ほら、開けて」
一生懸命開けとるし、つばも飲み込みたいし。
私、もう無理やし。
そうしたら、鈍い痛みと共に何か私の一部がもぎ取られた感触。
なんか変な物が喉の奥に流れ込んでくる。
「あ、ごめん。血管切っちゃった」
耳を疑いました。
今、血管切っちゃった、って聞こえたけど、それは空耳なのか。
目も疑いました。
しかも、なんで この大先生 薄笑い?
自分の胸につけられた心電図が奏でるリズムが 半端ないビートを刻んできます。
次第に遠くなる意識の中、恐怖に震える私の手をずっと握ってくれていた、主治医の若い先生が耳元でそっと、ささやきました。
「あれ、冗談だよ。」
・・・・・今、なんと?
一気に目が覚めました。
口を閉じると「ほら、閉じない!開けて」と長いさじを突っ込んでる大先生から怒鳴られるので、顎が痛くなるくらい開けたまま、あまりのことに顎が外れそうになりました。
ようやく、喋れるようになってから、主治医の若先生に聞いたところによると、「血管、切っちゃった」とは大先生十八番のブラックユーモアで、相手を選んで時々使われるネタだったそうです。
私は、医学部学生(しかも笑いが通じそう)、ということで、その先生のサービス精神が炸裂した結果のユーモアだったとか。
私は医者になる前でしたが、非常に有益なことを学びました。
医者のブラックユーモアは、患者の目の前をマックラにするだけで、全く笑えないということを。
私の身の回りの医者だけが、ちょっとおかしいんでしょうか。
もしや、類には類。友を呼ぶ。破れ鍋に綴じ蓋。
引き寄せの法則でしょうか・・・
その後、手術をした先生が大変偉大な医師であるということを知ったり、その大先生が夫の恩師となったり、笑えないジョークを解説してくれた若先生と退院後にデートしたり、デートしてみたら・・・の話は、またいずれかの講釈で。
禍福はあざなえる縄のごとし
西田美穂