クリスマスを迎えると思いだす少年がいます。
それは、あの「呪われた手術事件」があった日の夜のことでした。
その日は、クリスマスイブだったのです。
私は、よりにもよってクリスマス(25日)に手術を控え、前日から入院をしていたのです。
病院で過ごすクリスマスイブ。
呪われた手術ならぬ、呪わしいスケジュール
まだウブな19歳の私には、寂しい聖夜でした。
4人部屋の消灯時間。
20時過ぎだったでしょうか。
病院の窓から月明かりが漏れ、翌日の手術への不安でなんとなく寝つけずにいると、隣のベッドからカーテン越しに小さなすすり泣きが聞こえてきました。
「サンタなんか嫌い。お母さんも、お父さん嫌い。弟も嫌い。僕だけなんでここにいるの」
カーテンを開けると、少年が泣きながら私に言いました。
「サンタさんは明日、来るんじゃない?病院は煙突が無いから、たぶん、おうちに届いてるんじゃない?明日、お父さんかお母さんが持ってきてくれるよ。」
と私が言うと、少年は
「いや、絶対来ない。サンタさんはこない。弟だけプレゼントがもらえるんだ。僕には来ない」
とすすり泣くどころか、えんえん泣き出してしまいました。
それを聞いてるうちに、私までなんか悲しくなって、布団をかぶって、横の少年に聞こえないように泣きました。
アタシだって泣きたいよ。なんでクリスマスイブに病院なん。
今頃、友達は彼氏とラブラブで過ごしとるやろうに、なんが悲しくて、私は病院で少年と泣いとると?
彼とは別れてシングルだし、別に病院におらんでも、どうせシングルベルだし。
気のふれたアイツは「呪われた手術」なんか持ってくるし。
少年を慰めとったら、こっちまで泣けてくるわ。
と、泣き続ける小さきものを慰めることもできない、わが身のふがいなさと不運を呪い、なんだかもうグチャグチャでした。
自分が、親になってみて、その子のことを思い出すと、また違う気持ちになります。
病院のベッドで、どんなに少年は寂しかったことだろう。
聞けば、6歳とのこと。
3つ下の弟は家族と家で楽しく過ごしていることを想像して、どんなに悔しくて悲しかったんだろう。
今の私なら、もっと彼にマシな慰め方ができたんだろうと思います。
そんな少年ももう今頃は立派にスネ毛の生えた兄ちゃんになっとるんやろうな。
元気かな。
その後、少年は、あんまり泣くので、優しい看護婦さんがナースセンターに連れて行ってくれ、夜の病院探検を楽しんだようでした。
私は寝つけない手術前夜に 「呪われた手術」を読みながら、ますます眠れなくなるのでした。
その翌日、「呪われた手術」が現実となることを、その時の私はまだ知る由もありませんでした。(つづく)
西田美穂
あの夜の私たちに、夜廻り猫が来てくれたらね
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