先日、某社の依頼で「表情筋からアプローチするHappy Aging」というテーマで医師向けに講演を行いました。

久々の上京。美容医療の世界の重鎮の先生方が大勢いらっしゃる会だったので、ド緊張するから、気を引き締めようと和服。なんちゃって・・・着物で登壇してみたかっただけです・・・

幸せの形はひとそれぞれ。多様です。

私の幸せは家族と美味しいご飯を食べること、歌舞伎を観に行くこと、あったかい布団で眠ること

皆さんの幸せはどんなことでしょうか?

では、美容注入治療(ボトックスとかヒアルロン酸など)は、人の幸せにどう寄与できるのでしょうか?

私は、幸せと笑顔の関係に着目しました。

笑顔の中でも、本物の笑顔と言われる「デュシェンヌスマイル」は特に幸せとの関係が深いと言われています。

デュシェンヌは人の名前で19世紀のフランスの神経学者デュシェンヌ・ド・ブローニュに由来します。

デュシェンヌは病気で痛みを感じない男性の顔に電極を当てて表情の研究を行いました。

このデュシェンヌスマイルは、

優れた俳優を除いては 心からの真からの笑いの表現であるため

色々な笑顔の中でも、人生における影響が多いと考えられて様々な研究がなされました。

 

 

女子大の卒業アルバムの写真の表情(笑顔)と卒業後の30年を追跡して相関を分析した有名な研究があります。

アルバムの写真のデュシェンヌスマイルの度合いと、その後の人生結婚や家族に関するアンケート調査と照らし合わせたところ、

いずれの年代でも デュシェンヌスマイルの度合いが強い女性の方が高い幸福感があったという結果が出ました。

また、共学の大学の卒業アルバム写真の研究もあります。

この分析では、成人期初期に撮影された卒業アルバムの写真が、その後の人生の転帰を予測していました。

つまり

笑顔の強度が低いほど、後に離婚する可能性が高くなる、という結果が出ました。

また、この研究では、

平均年齢10歳の幼少期に撮影された写真からも離婚の可能性が高いかどうかが予測できたという恐ろしい結果が報告されています。

こうしたスナップ写真や、卒業アルバムの写真は、その人の人生のほんのわずかの行動の断片です。

ですが、その一部といえども、カメラを向けられたときに笑顔を浮かべられるかどうか、ということは撮影された人の安定した感情傾向を反映している可能性があり、これらの傾向は離婚などの人生の転帰を予測していると考えられています。

笑顔を浮かべることができるという、ポジティブな感情表現は生涯を通じて対人関係の結びつきを強め、生涯にわたってその人の人生を形成すると説明されています。

このように、笑顔は人生において大変重要です。

そもそも幸せだから笑うのか、笑うのか幸せなのでしょうか

アランは「人は幸福だから笑うのではなく笑うから幸福なのだ」と述べています。

アランは、哲学者でありますが、かなり実践的な人で

「人がいらだったり、不機嫌だったりするのは、あまり長いあいだ立ち通しでいたせいであることがよくある。そういう時、その人の不機嫌に対して理屈をこねあげたりしてはいけない。椅子をさしだしてやるがいい。」とも述べており、

幸福だとか不幸だとかは、心の問題でなく体の問題だと述べています。

 

心と体とが影響し合っているという主張はダーウィンに遡ります。

進化論で有名なダーウィンは

「人及び動物の表情について」の中で

表情と自律神経と感情は互いに影響し合うと述べています。

そもそも人間の表情筋というのは、動物の毛を逆立てる筋肉に由来するという説もあります。

動物が相手を威嚇、攻撃する時に、

アドレナリンを出し、心拍数を上げ興奮する。

歯を剥き出しにして、肩を怒らせて攻撃の体制を取る 毛を逆立てる。

という一連の流れを考えると、表情が自律神経と感情と互いに影響し合うということは自然なことです。

このダーウィンの考えはその後の心理学に大きな影響を与えました。

代表的なものにジェームズ=ランゲ説、あるいは表情フィードバック仮説というものがあります。

これは19世紀の学者、ウィリアム・ジェームズとカール・ランゲ の名をとった説です。

この表情フィードバック仮説では

内なる感情が表情に出るのではなく、

表情が脳にフィードバックされて「感情」を経験すると考えられています。

つまり

不愉快で、不機嫌だから、眉間にシワがよるのではなく、

眉間にシワが寄っているという状態が 不愉快で、不機嫌な気分をうむ。

では、常に眉間にシワが寄せられない状態にすれば

脳にフィードバックされて、鬱や不機嫌が改善するのではないか、という仮説のもと

不安や抑うつの強い方の皺眉筋をボツリヌストキシンで緩め、気分の改善を得たという論文も多くあります。

私は、「笑顔を作る」美容医療を自分のライフワークと考えています。

笑顔とは美容医療の力で患者さんのお悩みを改善させ

精神的に気分を明るくしたいという意味もありますが、それだけではありません。

もっと積極的に、そして具体的に患者さんの笑顔に介入したい。

こうした想いから

眉間の強張りを見つけ次第、「そのシワとったほうがいい」と指摘し続け、盛んにボトックス治療を行ってまいりました。

なぜなら

眉間にこわばりがあっては、うまく笑えないからです。

笑えなくては、幸せになれないのです。

試してみましょう!

眉間にしわを寄せて、口角を上げてみてください。

できますか?難しいでしょ?

一方、眉間にシワを寄せながら口角を下げるのは簡単です。

表情筋は個別に、意志の力で動かせると思われがちですが、

実はそんなに自由にはならないのです。

それは表情筋が複数 協調して動くからです。

そもそも表情とは、感情を伝える手段です。

感情を伝えるためには、

複数が連動する必要があります。

例えば怒りの感情を伝えるには

眉間のシワを寄せる筋肉(皺眉筋)だけでなく、上唇挙筋や、下唇下制筋、口角下制筋、おとがい筋などが協調して働きます。

このため、眉間に強張りがあると、こうした筋肉は協調しやすく、逆に、それ以外の筋肉の働きは抑えられるという結果になりがちです。

ですから、人が笑うためには、まず眉間のシワを作る筋肉の強張りをとる必要があるといえます。そのために、つい寄ってしまう眉間のシワに対するボトックス治療は重要です。

特に、コロナ禍のマスクが必須な現在、マスクで隠せない眉間のシワをとることは良好なコミュニケーションに有効であると言われています。

一方、マスクがあることで笑顔が表現しづらくなるので、目尻のシワはコミュニケーションに重要です。

某社のセミナーの際には述べませんでしたが、

私は、マスク必須な現在、目尻のシワのボトックス治療はあまりお勧めしません。

なぜなら、マスクをすると、マスク下では笑顔もマスクされてしまうからです。

(ご希望の方には施術しています。割と上手です)

以下の写真をご覧ください。

素敵な笑顔の方をボトックス治療を行いました。(詳細はこちら

どちらの笑顔も素敵ですが、マスクをすると笑っているかどうかが分かりにくくなります。

当院が目指しているものは、「美容医療を通じて人の笑顔を引き出し、その方の幸福に寄与したい」

おこがましいかもしれませんが、「誰かの幸せに少しでもお役たちたい」という思いで美容医療を行なっています。

皆さん、最後にもう一つ

「情動感染」という言葉をご存知ですか?

情動(感情)は人にうつります。

不機嫌も上機嫌もうつります。

ある実験では、「同室にいる人の不機嫌は3分でうつる」とも言われており、これは流行りのウイルス以上かもしれません。

つまり、眉間にシワを寄せた不機嫌顔の人をボトックスで治療して、上機嫌にすると、その周りの人も不機嫌から解放されて上機嫌になるかもしれない。

ボトックス治療は、治療をした人も、その周りの人にも幸せが広がる治療かもしれない。

そんな夢を持ちながら、

私は、今日も明日も

「まず、その眉間のシワを取った方がいい」と言い続けます。

みなさんの笑顔を引き出したいから。

そして笑顔から幸せのお手伝いができればいいなーと思っています。

西田美穂でした。

本ブログは、2021年10月17日の講演の内容を一部改変して書いています。

最後の写真は、岩城佳津美先生に撮ってもらいました。

着物でも結構飛べると分かりました。日本舞踊で鍛えただけあるでしょ。